7月5日シンポジウム報告
-「引用」と著作権の問題について-


 日本劇作家協会法務部は、さる7月5日(金)世田谷パブリックシアター・セミナールームにおいて、 協会員限定の勉強会として、『シンポジウム 「引用」「利用」「原作」「オマージュ」・・・? -加害者にも被害者にもならないために-』を開催いたしました。

 現在、AI技術やデジタルコンテンツの普及により、「引用」は創作者にとって容易に取り入れやすい手法となっています。しかし一方で「著作権を侵害する/される」というリスクも増大しています。また本年2024年1月には、テレビドラマにおいて漫画原作者とテレビ局、脚本家の間の齟齬により痛ましい社会的事案も発生しました。このような状況を踏まえ、「取材元」「原作」等の一次資料に接する機会のある創作者全員が、創作現場におけるより強い意識改革を求められています。
 そこで本シンポジウムでは、劇作家が仕事する際に知っておくべき「引用」などに関する最新の諸問題や、原作の舞台化、翻案などで注意すべき点を、専門家を招き、事例を交えながら論じました。

 まず第一部では、2021年『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』(作・演出  坂手洋二)で起こった事案について、当事者である東京新聞の片山夏子記者をお招きし、問題の本質についてお話しいただきました。
 さらにこの事案を受けて、引用,原作使用、翻案などで起こりうる以下のような諸問題を専門の弁護士に整理してお話しいただきました。 

・1月末「セクシー田中さん」における原作者とメディア化の問題
・デジタルコンテンツやアーカイブなど容易に引用がしやすくなった現在
・創作における「引用」についての最新の問題点
・「フリーライド」問題(他人の努力を自作に使っていいのか?)
・著作権の基本的な考え方

 被害者にも加害者にもならないために、創作活動における適切な引用の方法や、著作権の基本的な理解を深める貴重な機会となりました。

 今回取り上げた『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』(燐光群により2021年11月 座・高円寺1初演)の問題は、すでに当事者間で示談が成立していることから、劇作家協会としては、ここで何か新しいメッセージを発するものではなく、今後繰り返してはならない事例として経緯の説明、ご報告をいただきました。
 引用は著作権法に定められた権利ですが、一方で、舞台上では引用の範囲や出典を適切に示すことが困難なことから、日本劇作家協会としては引用、参照をする際にはあらかじめ原著作者の許可を得ること、引用元の多元的な明記などを強く推奨してきました。
  坂手氏は現在、当協会のすべての役職を外れておりますが、かつて長く会長を務められた方であり、現理事会としても本案件について重く受け止めています。
 今後は、決してこのような事態が繰り返し起きないように、著作権についての啓蒙活動に、よりいっそう力を入れていきたいと考えます。また演劇界全体へも、同様の働きかけを続けていきます。

  日本劇作家協会法務部では、演劇、戯曲に関する著作権についてのお問合せを常に受け付けております。


2024年9月19日 
一般社団法人日本劇作家協会 法務部(文責:平田オリザ)