── 熊本の演劇状況 Vol.2──
 <渡辺えり 熊本訪問インタビュー >

2016年6月26日 於:熊本 花習舎    



  演劇人の体験した熊本地震

熊本・大分で2016年4月14日から16日にかけて起きた大地震と、その後に数限りなく続いた余震は、同地の演劇にも大きな影響を及ぼしました。
被災地域にあってまず第一に大切なのは生活の復旧であり、演劇などの文化復興はそのあとのこととならざるを得ません。が、生活と演劇とが分かち難く結びついていた人々がいます。
劇作家協会副会長・広報部長の渡辺えりが、地震から2カ月後の6月26日、熊本を訪問して約20人の演劇人と会い、彼らの生活と演劇についてお話を伺いました。

(インタビュー:渡辺えり/記録:古殿万利子/文責:国松里香) 

① Gallery ADO、移転オープン12日後の地震
  ──  海幸大介
 MIYUKI Daisuke (劇団夢桟敷)


海幸大介さん(写真)は、4月2日に移転オープンしたばかりのギャラリーの閉鎖を余儀なくされた。

もともとは熊本市中央区河原町にあったGALLERY ADO (ギャラリーアドゥ)。ギャラリーという名称ながら劇団公演なども行われていたスペースだ。
移転先は熊本市東区の健軍商店街の中で、海幸さんは新しいADOも劇場として使えるようにしようと、改装にも関わって2月からずっと準備作業を続けていた。
1階は店舗、2階と3階がギャラリーで、広さは小劇場とホールの中間くらい。50平米強で100人くらい収容できる。「思ったような空間にすることができた」と海幸さんは言う。

4月2日にオープニングパーティを行なった。その矢先の地震に、「たたりじゃないか」と思ったそうだ。2軒となりのスーパーマーケット “サンリブ”が、健軍商店街のアーケードの屋根に寄りかかるように崩壊し(写真)、その影響でADOが入っていたビルも営業停止を余儀なくされる。4月23日に予定されていたこけら落とし公演、劇団仮面工房『見知らぬ夜の散歩人』も中止となった。ほどなく、ビルの解体が決定。新ADOはオープンから1カ月も経たないうちに終了となる。

健軍商店街の近くには300人のキャパシティを持つ健軍文化ホールがある。昨年には劇団ゼロソーのアトリエ・花習舎(かしゅうしゃ)もできた。「ここにGALLERY ADOが加われば、東京の下北沢のような地域になるんじゃないか」と思っていたそうだ。「残念で仕方がない」と海幸さんは言った。「本当に残念で仕方がない」。


GALLERY ADOFacebookページ
*2016年9月現在、GALLERY ADOは蔦屋書店三年坂店のイベントスペース、および被災により立て直し予定のテナントビル・OMOKIビル『躯体から観える記憶』展などで活動している。




② Space早稲田 演劇フェスティバル参加へ
  ──  山南純平
 YAMANAMI Junpei (劇団夢桟敷)


海幸さんと同じく山南純平さん(写真奥)も、「健軍を演劇の街にしよう」と夢想していた。

自宅も健軍にある。家屋の応急危険度判定は “要注意” 。この判定は余震などによる二次被害を防ぐためものだが、赤(危険)と緑(調査済み)の間の黄色(要注意)が、具体的にどのくらい危険なレベルかはよくわからず、「 “自己責任” なのだと解釈している」そうだ。

引っ越しの準備や罹災証明の取得手続きなどを進めている。人情豊かな街・健軍を離れること、健軍を演劇の街にする夢想がいったん潰えたことは、「大変残念」だと山南さんは言う。「災難続きだ。歯もない、地震のおかげで」。地震で逃げたときに置いてきてしまった入れ歯は見つからないまま。インタビュー時も入れ歯なしでのお話だった。

だが、10月には東京のSpace早稲田演劇フェスティバルに参加する。「カラ元気を出してがんばっている」。フェスティバル参加のために結成したユニット “九州「劇」派” 。このユニット名は、1960年代の前衛美術 “九州派”をイメージして名づけた。『少女都市からの呼び声』(作:唐十郎)には肉体から転げ落ちた人々の復興がある。演劇の復興に向け、12月には熊本公演も予定している。


九州「劇」派公式サイト
拝啓 唐十郎さま『少女都市からの呼び声』より
東京公演 2016年10月21日(金)〜23日(日) 於:Space早稲田
熊本公演 2016年12月9日(金)〜11日(日) 於:花習舎
*山南純平、演出・出演。海幸大介、出演。

 




<渡辺えりと熊本の演劇人たち>
・後列左から:河野ミチユキ(ゼロソー)、平野浩治(劇団濫觴)、
 山田夕可(ゼロソー)、池田美樹(劇団きらら)、桑路ススム(フリー)、
 川津羊太郎(劇作家)、木内里美(The ちゃぶ台)
・中列左から:井芹誉子(劇団「石」)、吉丸和孝(ゼロソー)、
 松本眞奈美(劇団「市民舞台」)、さとうりつこ(アフタフ・バーバン九州)、
 菊本 明(劇団「石」)
・前列左から:松岡優子(ゼロソー)、森岡 光(不思議少年)、渡辺えり、
 吉岡志穂(劇団「市民舞台」)、坂本龍彦(劇団「市民舞台」)