九条やめたら運が逃げますよ



マキノ 若い人のことは、やっぱり心配だよね。格差っていうよりも、問題は搾取の対象になっちゃってることだと思う。高度成長期って、冷蔵庫でも自動車でもクーラーでも、作ればそれが売れたわけじゃないですか。でもそれが各家庭に行き渡っちゃうと、もう売れないわけじゃない。で、基本的に売る物がなくなっちゃった世の中っていうのが、1980年代以降に来たわけですよね。
今はゲームとかスマホとか、基本そんなに必要がないものを必要だと思わせて、主に若者相手に売ってる。若者にこまごまと物を売ると儲かるってことを、大人が見つけちゃったんだと思うなあ。ジャニーズ商法と言ってもいいですけど、一人一人は小さなお金でも大勢に売れば大儲けっていう。 たとえばクリスマスにね、恋人と一緒に過ごさないとダメなんていう風潮が出てきたのって、85~86年以降で、その前はクリスマスって子どものものだったのね。
永井 ああ、そうだね。
マキノ うん。せいぜい子どもが集まってクリスマス会をやるくらいで、基本、家族で過ごすもんだったの。それが何で恋人と過ごさなあかんようになったかっていうと、若者にそうさせた方が儲かるから。最近はもうハロウィン・パーティとか言ってるし。「おまえら、騙されとるで」って思う。
若い人間は常にいるわけで、きらびやかな新製品のCMを見るとさ、「え、もう携帯持ち変えないとダメなの?」っ思うでしょ。「これ持ってないと遅れるよ」「こうしないと乗り遅れるよ」って大宣伝して思い込ませて買わせてる。要するにこれは、若者が搾取の対象になってる。なんかね、若い奴は可哀想だなって思うの、いろんなことにお金と時間使わされて。それで経済が回ってるんだけど、儲けてるのは若者じゃない、それ仕掛けた大人でしょ。で、そういう若い人がさあ、大きくなったって家買えないわけじゃないですか。
永井 福島でも、若い人が一番害を受けるし、戦争がもしも始まっちゃったら行かされるのは若い人だし。
マキノ そうそう。『我が窮状』で僕がいちばん共感したのはね、「老いた者は、それを守る礎になろう」っていう部分。僕は54になったんですが、子どもの頃には戦争なんて遠い昔のことだって思っていたんですよね。でもいま考えると自分が生まれるたかだか14~5年前には、このあたりも空襲で大変だったわけで。年を取ると時間の物差しみたいなものが変わるから、14~5年前なんてつい最近ですもんね。
年取ると、「こんなに簡単に失われて、そしてそれはもう二度と戻らない」っていうものがどんどん増えてくる。例えば膝や腰を一度悪くするともうよくはならないとか、友人知人もどんどん亡くなっていきますし。憲法九条ってのも同じだと思う。一回失ってしまったら、もう永久に失われてしまう、もう二度とこういうものを手に入れることはできないと思う。
若い人が、改憲に賛成、特に九条改正をわり支持してるって週刊誌で見て、日本社会のこれからの主体として、自分たちの手で憲法を変えるんだっていう気持ちはわかるけど、「若人よ、それはもったいないぜ!」ってすごく言いたいのね。ちょっと待ってくれ、早まるなよって。言われてもピンと来ないかも知れないですけど。でも改憲なんて話にあんまり簡単に乗っからない方がいいよっていうか。だってそれ、経済優先の一部の大人の思惑だと思うから。
沢田さんの活動を励みに
永井 沢田さんはこれからも定期的に、オファーがあったものと、ご自分で発信していくものと、両方やっていかれるんでしょうか?
沢田 いやもう、自分のところでできることだけをやろうと思ってて。まあもちろん、(外部からのオファーでも)面白そうな、どうしてもやりたいと思うものがあればやるでしょうけど。今はもう年も年なんで、やっぱりね、だんだん目も見えにくくなるし。
永井 え? そんなこと……。
沢田 いや、本当にそうなんです。元気な人は鍛えると、能力とか筋力とかいろんなものが伸びるっていうけど、僕はもう消耗品だと思うてるんで(笑)。だからね、ちゃんした使い方しないと。若い頃にめちゃくちゃ酷使したし、酷使を厭わなかった方なので、もう年とったら自分のところでやることだけでいい。コンサートも自分たちのところでやってるんですよ、人に頼むんじゃなくて。
永井 タイガースの活動は今後も続けられる?
沢田 いや、たぶん、今回が最後になると思います。
永井 そうですか。
沢田 ソロのコンサートは、今のところやめるという計画はなくて。できるとこまでずっとやろうと思ってます。
マキノ 5年前の還暦ツアーの最後、東京ドームでやったのが物凄かった。80曲ですよ。6時間半でしたっけ。
沢田 3時から始めてね。
永井 それはお一人で?
沢田 はい。せっかく沢田研二を見に来てるのに、他の人が入って僕の歌う曲数が少なくなるのは、申し訳ないっていう考え方なんですよ。
マキノ 言うなれば集大成みたいなコンサートを12月におやりになって、普通だったらしばらく鳴りを潜めると思うんですけど、沢田さんは毎年恒例のコンサートを翌1月にきっちりなさるんですよ。そこがすごく素晴らしい。
沢田 止まるとね、きっともう止まったままになっちゃう(笑)。もう、休み癖がついてしまうと。今は別に、そんなに忙しいわけじゃないので。
永井 沢田さんの活動に励まされてる人は、本当に多いと思います。

沢田 はい、またそのつもりで。
永井 ご自分の思いのこもった歌を作っていただいて。
沢田 はい。それは。
永井 すごく楽しみですね。言いたいけど言わない表現者が、やっぱりいっぱいいると思うんですよ。山本太郎さんもおっしゃってたじゃないですか。応援演説頼んだとき、みんなに「ごめんね」って言われるって中で、沢田さんはすぐに応じてくださったって。私本当に、「日本の表現者でこういう人いるんだよ! しかもあのジュリーだよ! すごくない?! 」って思うし、素晴らしいと思う。変な人が今、首相をやってますけれど、でもそのおかげで、そうじゃない動きも見ることができるって考えれば…。そうやって見えたものを励みにして、私も逃げないで、何とかこの国にとどまって、生きていかなきゃいけないなと。うん。

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