長田育恵
── 2007年度受講。16年、鶴屋南北戯曲賞受賞、岸田國士戯曲賞ノミネート。18年、紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。
南出謙吾
── 2014年度受講。15年、北海道戯曲賞優秀賞。16年、劇作家協会新人戯曲賞受賞。18年、シアタートラム ネクスト・ジェネレーション選出。
土田英生 ── 日本劇作家協会代議員・運営委員。
演劇に必要な出会いを見つけに

長田 ありがとうございます。がんばります。
土田 セミナーに通う前から劇作はしていたんですか?
長田 ミュージカルを書いていました。大学でミュージカルサークルに入って、そのまま10年くらいずっとミュージカルの仕事をしてたんです。そこを離れて次のところに行きたい、現代演劇の芝居を書きたいと思ったんですけど、でも人脈も全くなくて、どうやって始めたらいいのかもわからなくて。戯曲セミナーに行けば、現代演劇をこれから始める人たち60人くらいに、一度に会えると思ったんです。
土田 セミナーを知ったのはどこで?
長田 チラシです。授業料はけっこう高いなと思ったんだけど、そのときはとにかく現代演劇をやりかったからあんまり迷いませんでした。チラシ見かけてすぐに申込み。
土田 なるほどね。アイドルみたいにお姉さんが勝手に応募したとかじゃなくて(笑)、自分自身の強い意志で決めたんですね。
長田 セミナーに通うために転職もしました。私は劇場に勤務をしてたんですが、決まった曜日に毎週17時で帰るようなことはできなかったので。
土田 すごい決意で戯曲セミナーに飛び込んだ。
長田 そうそう(笑)。
土田 南出くんは戯曲セミナーに来る前、相当長いあいだ演劇をやってたんですよね。

南出 大阪で10年くらい劇団をやってました。
土田 そのまま自分で続けるっていう手もあったと思うけど?
南出 ぼくは会社勤めをしているんですが、東京に突然転勤になったんですよ。大阪の劇団を東京に持ってくるのはとてもじゃないけど難しかったので、そこはお休みにして。戯曲セミナーの存在は元々知ってて、前から受けたいなと思ってたんです。でも東京に来たときは、募集をちょうど締め切ったところだった。だから1年間は演劇は観るだけで、翌年、友だちを探しに受けました。
土田 南出くん、それじゃ単に寂しいってことになっちゃうよ(笑)。
南出 東京でも演劇やりたいなと思ったんだけど、芝居をどれだけいっぱい観ても、観るだけじゃ友だちはできない。戯曲セミナーで演劇仲間を作ろうと思ったんです。
土田 ふたりに共通するのは、演劇をやるのに必要な出会いを見つけるためにセミナーに行ったっていうことですね。
長田 いま第一線で活躍されている劇作家のお話を、直接聞けるっていうことも受講の理由でした。1年を通じてたくさんの劇作家にお会いできるから、いまの現代演劇を支えているのはこういう方たちなんだって、本当によくわかりますよね。
土田 戯曲を学ぶって、以前ならいわゆる徒弟制度みたいに先人の真似をしながらやって、いやこれは自分とはちょっと違うなって思い始めて、だんだんオリジナリティを獲得していく方法だったじゃない? それに対して戯曲セミナーは、どんどん違う講師が来て話す。すると、先週はこうやれって言われたのに、今週はこうやるなって言われたりするでしょ? それで混乱はなかったの?
長田 講師の方がそれぞれのやり方を正直に話してくださる。いろんな方法があることが、私は逆によくわかりました。
土田 それは長田さんに素地があったからじゃないかな。全く書いたことなかったらどうなんだろう。
南出 ぼくのときは、平田オリザさんの講義が5回、長谷基弘さんが3回ありました。このおふたりって、ここまでロジカルに戯曲を分析している人がこの世にいるのかって思うくらい、完全に分解したものをきちっと体系立ててますよね。あの話を聞けば、全く書いたことのない人でもイロハからわかると思う。
長田 最近は実際にプロットや台詞を書くような、実践タイプの講義が増えてますよね。
南出 かと思うと、自分の人生経験を語る人もいる。
長田 劇作家の人間性に触れられますよね。実際にお会いするとその迫力に打たれて作品の説得力が増したり。私のときは、(故)斎藤憐さんの講義があったんです。戯曲のシーンのプリントを渡されて、このテキストで一番大事なことは何かって。私、指されたんですよ。テキストの内容にかかわることを答えたら、「違う! 一番大事なのは、登退場で物語が進んでいるってことだ!」って。
土田 それ当たる人っていないでしょ(笑)。
長田 いないですよ。でもしっかり刻み込まれました、戯曲を見たときにはまず登退場、って(笑)。
土田 登退場だけじゃしんどいこともあるよ。
長田 そうですね。ただ、これまで小説のテキストにしか触れたことがなかった人には、戯曲は書いてある文字面じゃなく、登退場のような仕組みでやってることが、もうのっけにわかる。

土田 ああ、それは必要だね。最近はダイアローグの芝居がすごく減ってきてるような気がするんですよ。小説の地の文みたいな、内面をわーっと吐露するナレーション的な台詞で運んで、その説明のためにシーンが入ってくるような形が多い。だからこそ、きちんとした仕組みのなか書いてみるのは、すごく勉強になるかもしれないよね。
長田 土田さんの授業も面白かったです。5行とか10行のなかで、登場人物ふたりの関係性や状況をわからせるっていう。劇作家はこうやって、シチュエーションと絡ませながら、必要な情報をコンパクトにしてるんだなって。ひとつの台詞にひとつの効果だと効率が悪くて、ひとつの台詞に2つなり3つなりの効果を入れて構築していることがよくわかりました。
土田 一番いいのは、たとえば「白い水筒だね」って言うだけで、「あ、ふたりは長い間つきあってたけど今日別れたんだな」って観る人にわかることだと思うんだけど、なかなかそうはいかない。
長田 人間は実際の暮らしのなかでは、みんなそういうやりとりをしてるんですよね。それを意図的に書くことがわかって、すごく印象深かった。
土田 南出くんの印象に残っていることは?
南出 平田さんの授業で、「うまく書く方法は教えられません」って宣言されて、「でも失敗しない方法、やっちゃいけないことだけは教えられる」と。劇作って確かに個々のやってることが全く違って、それぞれが持つ突き抜けたところを伸ばしていくしかないと思うんですよ。もしこの方法がいいぞ、こっちに来いって旗を振られたらそこまでしか行けないんですけど、これは絶対やってはいけない、こっちには来ちゃだめだって押さえておければ、あとは自由にどこまででも行ける。ぼくは平田さんの本を読んでいたので、見たことあるフレーズだったんですけど、改めて本人から教わるのは大きい。やっちゃいけないことを意識してやらないようになったことも、とても大きいと思いました。
土田 ぼくも書けないと平田さんの本をついつい読んで、基本に帰るみたいになっちゃう(笑)。
**[写真] 上から:長田育恵、南出謙吾、土田英生
土田 戯曲を学ぶって、以前ならいわゆる徒弟制度みたいに先人の真似をしながらやって、いやこれは自分とはちょっと違うなって思い始めて、だんだんオリジナリティを獲得していく方法だったじゃない? それに対して戯曲セミナーは、どんどん違う講師が来て話す。すると、先週はこうやれって言われたのに、今週はこうやるなって言われたりするでしょ? それで混乱はなかったの?
長田 講師の方がそれぞれのやり方を正直に話してくださる。いろんな方法があることが、私は逆によくわかりました。
土田 それは長田さんに素地があったからじゃないかな。全く書いたことなかったらどうなんだろう。
南出 ぼくのときは、平田オリザさんの講義が5回、長谷基弘さんが3回ありました。このおふたりって、ここまでロジカルに戯曲を分析している人がこの世にいるのかって思うくらい、完全に分解したものをきちっと体系立ててますよね。あの話を聞けば、全く書いたことのない人でもイロハからわかると思う。
長田 最近は実際にプロットや台詞を書くような、実践タイプの講義が増えてますよね。
南出 かと思うと、自分の人生経験を語る人もいる。
長田 劇作家の人間性に触れられますよね。実際にお会いするとその迫力に打たれて作品の説得力が増したり。私のときは、(故)斎藤憐さんの講義があったんです。戯曲のシーンのプリントを渡されて、このテキストで一番大事なことは何かって。私、指されたんですよ。テキストの内容にかかわることを答えたら、「違う! 一番大事なのは、登退場で物語が進んでいるってことだ!」って。
土田 それ当たる人っていないでしょ(笑)。
長田 いないですよ。でもしっかり刻み込まれました、戯曲を見たときにはまず登退場、って(笑)。
土田 登退場だけじゃしんどいこともあるよ。
長田 そうですね。ただ、これまで小説のテキストにしか触れたことがなかった人には、戯曲は書いてある文字面じゃなく、登退場のような仕組みでやってることが、もうのっけにわかる。

土田 ああ、それは必要だね。最近はダイアローグの芝居がすごく減ってきてるような気がするんですよ。小説の地の文みたいな、内面をわーっと吐露するナレーション的な台詞で運んで、その説明のためにシーンが入ってくるような形が多い。だからこそ、きちんとした仕組みのなか書いてみるのは、すごく勉強になるかもしれないよね。
長田 土田さんの授業も面白かったです。5行とか10行のなかで、登場人物ふたりの関係性や状況をわからせるっていう。劇作家はこうやって、シチュエーションと絡ませながら、必要な情報をコンパクトにしてるんだなって。ひとつの台詞にひとつの効果だと効率が悪くて、ひとつの台詞に2つなり3つなりの効果を入れて構築していることがよくわかりました。
土田 一番いいのは、たとえば「白い水筒だね」って言うだけで、「あ、ふたりは長い間つきあってたけど今日別れたんだな」って観る人にわかることだと思うんだけど、なかなかそうはいかない。
長田 人間は実際の暮らしのなかでは、みんなそういうやりとりをしてるんですよね。それを意図的に書くことがわかって、すごく印象深かった。
土田 南出くんの印象に残っていることは?
南出 平田さんの授業で、「うまく書く方法は教えられません」って宣言されて、「でも失敗しない方法、やっちゃいけないことだけは教えられる」と。劇作って確かに個々のやってることが全く違って、それぞれが持つ突き抜けたところを伸ばしていくしかないと思うんですよ。もしこの方法がいいぞ、こっちに来いって旗を振られたらそこまでしか行けないんですけど、これは絶対やってはいけない、こっちには来ちゃだめだって押さえておければ、あとは自由にどこまででも行ける。ぼくは平田さんの本を読んでいたので、見たことあるフレーズだったんですけど、改めて本人から教わるのは大きい。やっちゃいけないことを意識してやらないようになったことも、とても大きいと思いました。
土田 ぼくも書けないと平田さんの本をついつい読んで、基本に帰るみたいになっちゃう(笑)。
**[写真] 上から:長田育恵、南出謙吾、土田英生
<プロフィール>

長田育恵 てがみ座主宰・NOTE Inc.所属 (写真右)
1977年生まれ。東京都出身。2007年に「戯曲セミナー」を受講。翌年に同研修課で井上ひさし氏に師事。2009年てがみ座を旗揚げし、全公演の戯曲を手がける。2015年『地を渡る舟』(再演)で第70回文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、2016年『SOETSU―韓くにの白き太陽-』で第61回岸田國士戯曲賞にノミネート、『蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞―』で第19回鶴屋南北戯曲賞受賞。同年、文化庁東アジア文化交流使に就任、韓国に派遣。2018年には青年座『砂塵のニケ』・てがみ座『海越えの花たち』・パルコプロデュース『豊饒の海』の脚本により紀伊國屋演劇賞個人賞。
南出謙吾 劇団りゃんめんにゅーろん主宰・らまのだ座付作家 (写真中)1974年生まれ。石川県出身。1999年より大阪に移住して「劇団りゃんめんにゅーろん」を主宰。2008年に伊丹想流子塾に入塾し、マスターコースにも参加。転勤により東京に移り、2014年に「戯曲セミナー」を受講。翌年より研修課で坂手洋二氏に師事。2015年に「らまのだ」旗揚げ。同年、『終わってないし』で第2回北海道戯曲賞優秀賞受賞、『ずぶ濡れのハト』で第21回劇作家協会新人戯曲賞最終候補。2016年に『触れただけ』で第22回劇作家協会新人戯曲賞受賞。2018年にはシアタートラム ネクスト・ジェネレーションに選出される。
土田英生 MONO代表・(株)キューブ所属 (写真左)
1967年生まれ。愛知県出身。1989年に「B級プラクティス」(現「MONO」)結成。1999年『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞大賞を受賞。2001年『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で第56回芸術祭賞優秀賞を受賞。2003年文化庁の新進芸術家留学制度で一年間ロンドンに留学。2010年から2013年まで「日本の劇」戯曲賞選考委員。2014年より北海道戯曲賞選考委員。ドラマ『斉藤さん』『崖っぷちホテル!』、映画『約30の嘘』『初夜と蓮根』など映像脚本の執筆も多数。日本劇作家協会代議員、運営委員。戯曲セミナーの講師、新人戯曲賞の審査員も務める。
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