九条やめたら運が逃げますよ   
最大の危機と良識の信頼

秘密保護法 ── なんとかなるのかならないのか

Image永井  私は戦後に生まれて、戦争であんな酷い目に遭わないですむんだと思っていたら、私よりも年下の首相が「日本を取り戻す」とか言い出して、憲法を変えようとする。明確に見えているのは九条の完全否定ですけども、国民主権すらも、ちょっと危ない。
沢田  国家が先に来てるんですね。
永井  そうそう! 私は今まで生きてきた中で、今が最大の危機のような気がするんです。アンケートを取れば九条を変えない方がいいっていう人の方が多いから、自民党は公約で、九十六条を変えて憲法の変え方を緩くするって出したじゃない。で、それがものすごく評判が悪かった。そしたら今度、九条を変えると言わないで、政府の解釈改憲で集団的自衛権を行使できると言い出した。国民投票を経ないわけだから、現実的にやろうとしたら数の力でやれちゃうじゃないですか。それだけじゃなくて、特定秘密保護法案[註4]。「あなたを逮捕します。その理由は秘密です」って言われて、何十年経っても、「秘密指定ですから、何が秘密かは秘密です」で通されちゃったら、これこそもう、国民主権の売渡しですよ。
 この間ね、反対の声を上げてがんばってる人がね、「今はがんばってるけど、もしこの法案が通ったら外国に移住する」って言ったの。「だってどうしようもないじゃない! これから何十年も、もうどうすることもできないよ」って。それがすごくショックで。反対ですって言うこと自体が、本当に通らない世の中にかなり踏み出した気がするんですけど、お二方は今後、何とかなるって気がします?
マキノ 半分はね。
永井  本当?
マキノ まあ、それは(もの言わぬ)人々みたいなものを、まだ信頼してるっていうことではあるのかな。特定秘密保護法案でいえば、ちゃんと情報公開法とセットになってない限りは、本来はあり得ないことじゃないですか。何十年か経ったらどんな秘密情報も公開する、実際にアメリカではいろいろ公開されて大変なことになってんじゃねえか、みたいなこととセットじゃない限りはダメでしょう。
 それが良識ってもんだし、そういう当たり前な良識が、まだこの国の人々にはあると思う。だから、たとえ通ってしまってからでも、「これではかつての治安維持法だと同じじゃないか」って声がもっと起こってくるんじゃないだろうか。
永井  でも、「議事録とりません」ってはっきり言ってますからね。だから何年経っても、誰がこういう発言をしてこうなったかっていうのはわかんないわけですよ。「原発情報はテロの標的になるから、汚染水が今どうなってるかは秘密指定です」って言われたら、取材した人、情報提供した人は捕まっちゃうわけでしょ。九条を変えるなって言ったって、「防衛上の秘密だから、今どうなってるかは言えません」と拒否されたら、全部骨抜きになるじゃないですか。そういうところに、本気で差し掛かったのかなって。ねえ、日本人はそこまでバカじゃないと思う?
マキノ と思うけどね、半分はね。
沢田  黙ってる人はいっぱいいる。今のところは黙ってる人の方が多い感じでしょ。本当にそういう具合になってきた時、黙ってきた人たちも、おかしいっていうのは歴然とわかる。どういう時点でも遅過ぎるってことはないと思うから。

 
集団的自衛権より個別法
 
永井  前回の対談で、赤川次郎さんがおっしゃったんですよ。もし九条がなくなって戦争が始まっちゃったら、みんな「ああ、やっぱり九条があればよかった」って思うかっていったら、実はそうじゃないって。誰も住んでいない島のことで揉めて、そこでもし、発砲で日本人が一人でも死んだら、世論がわーっと「倍返しよ!」ってことになっちゃうって。私それ、リアリティーあったんですよ。
マキノ わかります。
永井  わーっと、「もう九条なんて言ってられない」って世論で塗りつぶされて、行くとこまで行っちゃうんじゃないかと。
マキノ いや、あのねえ、僕はそのために九条があると思うんだけどな。
永井  だけど解釈改憲されちゃったらね。
マキノ そうそうそう。だから集団的自衛権っていうのだけは、絶対になしってことです。
永井  でも個別自衛権でもいけちゃう。その無人島に日本人の誰かが上陸して、撃たれちゃったりしたら、もうもうもう。
マキノ でもそれは刑事事件としての解決だね、やっぱり。
永井  そうなってくれればいいけど、待ってましたとばかりに利用されちゃうと。
マキノ そこまではないと思うな。よくね、「日米安全保障条約の同盟国であるところのアメリカの艦船が目の前で攻撃されてても、イージス艦からは応戦できないんですよ?」ってたとえ話をする論者がいる。それは僕、個別法でやったらいいと思う。「そういうことが起こった場合は応戦します」とすればいいだけで。活動中に攻撃されてやむなく応戦するっていう限定的な戦闘と、そこから集団的自衛権にものすごく一足飛びに飛ばして、攻撃を受けたから報復のためにその国を攻撃しに行きますっていうのは、「それ全然別の話だから!」と思うのね。だからそのたとえ話を出す時点でもう、「あ、まやかしがある!」ってすごく思うんだけど。
永井  おかしいよね!
マキノ でも、九条がこのままある限り、解釈改憲で集団的自衛権には一気に持ってけないと僕は思うのね。
永井  そんな気はしてるんだけど、本当にわかんないんですよ。そういう理屈がね、通じればいいけど……。
マキノ 「PKO活動中に襲われても、今の憲法では応戦できないんですよ? それで日本人の死者が出たらどうするんですか?」って言われる。でも現実には、PKO活動中に他国の攻撃を受けて殉死した日本の自衛隊員は、今のところいないわけじゃないですか。今の状態で何かすでに大問題が起こってるかのように言い立ててるのは、まやかしだと僕は思うのね。問題起こってないうちはこのままでいいじゃんって思う。
 さっきも言ったけど、九条って元々はアメリカの要請だったんだから、「そもそもお宅が作ったもんですから、そうそう変えられらないっす。僕ら気に入っちゃってますから、ちょっと変えられませんよ」って、これ最大の切り札だと思うんだけどなあ。ここ手離しちゃったら、アメリカに対してもう切り札ないよって思うんだけど。
 
 
トコトンいっちゃう日本人
 
沢田  争い好きで、勝つこと好きで。負けるが勝ちっていう言葉もあるぐらいなのに、やっぱり勝たないといけないって言うでしょ。昔からそうだったんだからしょうがないのかなあって諦めるしかないね。「やられたらやり返す!」とか「そら行かなおまえ、男やないやろ!」とか「日本人やないやろ!」とか言う。学校で習ったことは、世間に出てきたら全部なくなってますよね。今なんか、「そんな人の好いままでは生きていけませんよ」とか言われる世の中じゃないですか。負けたってええやんかと思うんだけど。
マキノ これちょっと大きな話なんだけど、日本人って民族的に、本当に熱くなるとカーッて行くとこまで行っちゃう方だと思うんだよね。要するに、忠臣蔵みたいに「今は臥薪嘗胆で、いつの日かやっつけてやる!」っていうのが好きなんやと思うのね。「俺たちって、きっとトコトン行っちゃう人たちだぞ」って、皆、無意識でもどこかでその自覚があるんだと思うの。この前の「大東亜戦争」では本当に国を滅ぼす寸前まで行っちゃったわけだからさ。今だって、いざやるとなったらトコトンやると思うんだよ。だから。だ・か・ら。「やらない方がいい!」っていうことなんだ、単純に。
 たぶん今までは、そういう無自覚の自覚というか、この前の戦争の経験とか記憶で歯止めが効いてきたんだと思う。でもこれからは、「やるとなったら日本全土が焦土と化すまでやるぞ!」「刺し違えてでもやるぞ!」っていうのが基本好きなんだってことを、僕らの中にはそういうものが実は奥深くにあるんだってことを、クールにそう思っといた方がいいっていうか。俺たちはそんなに世界からは好かれない人たちなんだっていうのもクールに思っといた方がいいし、この先うんとがんばれば世界中が尊敬してくれるとか好きになってくれるとか、思わない方がいいなあとかね。
 とにかく、世界とあんまり全方位的に関わらない方がいい。本当にここ5~6年で特にそう思うようになった。むしろ、限定的に、自分の手が届く範囲のところはもちろん親切にしましょう、何か親切にされたらお返しはしましょう、御礼はしましょうってぐらいなことでいて、自分から国際貢献とかリーダーシップとかって思わない方がいいと思う。
永井  そうですよね。国のメンツや、国際貢献という名目で武力行使に踏み切るようなことは、絶対あってはならないと思う。
マキノ あとね、言葉に酔い易いっていうのもあるから、「かつて平和憲法というものを護持して、そこに殉じて滅んでいった立派な国があった」っていうなら、もうそれで充分じゃないかと、僕なんかはそんなふうに思っちゃう(笑)。「そんな国を攻撃してくるような世界なら、それは私たちが生きるに値しない世界だ」ぐらいなことをね、格好いいと思っちゃうんだけどね。
 現実にはそんな夢想は相手にされなくて、「世界の国際政治の舞台ではこういうことが起こってます。こんなふうにして日本の国益は損なわれてます。だからこうしましょう」っていう改憲派の論法に押されちゃうと思うんだけど。でも本当にリアルなこと言うと、国際政治に参加していけばいくほど、日本はきっと嫌われるしさ。で、九条の歯止めなくしちゃったら、いざという時には本当にやるからね。もし何か酷い目に遭ったら、本当に自分たちが滅びるまでトコトン行っちゃう人たちなんだから。
 だから、強い軍隊を持っておくっていうのは別にいいことだと僕は思うのね。吉田茂の時代みたいに軽武装でいいとは思わない。その時代に即して、最新鋭の方がいいと思う。それで恐れられてればいいと思う。練度も高い方がいいと思う。で、自衛官も誇り高い方がいいと思ってるんだけど、でもそれは国内向けには軍隊ではないっていう。「日本のは自衛隊ですから」っていう、ダブルスタンダードでいい。そういうふうにして少なくとも戦後六十何年? 再来年で七十年ですか、無事にやってきたんだもの。そんな期間戦争しなかった国は、もう平和国家として誇っていいわけだから。変える必要は全くない。
沢田  うん、変える必要ない。変えちゃいかんですよ。
マキノ もし九条を変えて何か起こしたら、それこそ誇りに泥塗っちゃうじゃんって思う。
沢田  もっと言うと、もう原爆とか作っちゃうよね。核持っちゃうよね。
マキノ そうそう! 「核武装しましょう」みたいな話に絶対になってく。
沢田  まあ、持ってるっちゃ持ってるんですけど。
永井  安倍さんは官房長官だった06年に、「北朝鮮のミサイル基地をたたくことも、法律上の問題としては自衛権の範囲内」って言ったことがある。ブッシュがイラクに攻め入ったのは、「防衛のための先制攻撃」って口実でしたもんね。先制攻撃したら防衛じゃないだろって規範を、ブッシュが破っちゃったわけじゃないですか。安倍さんの発言はそれに乗じたんだと思う。冗談じゃなく危険な人が、今首相になっている。私は日本人の良識を信じたいし、いざとなったら「違うよ」「ダメだよ」って言うって思いたいけど。
マキノ 今は世論って、あってなきがごときだもんね。投票率がこれだけ低ければ、本当の世論は選挙に全然反映されてないわけだし。


 
註4 特定秘密保護法案
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