TPP・児童ポルノ法をどう見るか?   
性表現はなぜ規制されるのか?
 
 マンガは永井豪先生の頃から叩かれやすいメディア

赤松
:演劇に対する圧力、表現規制、「お前らいい加減にしろよ」、というのはあるんですか? マンガ家には随分あるんですけど。

坂手:具体的にどういう種類のものですか?

赤松:特にもう、性表現ですよ。性器を描いて、黒消しをどうとかという話を毎日延々とやってる。

坂手:それは、他からの圧力なのか、自粛の問題なのか、どちらが多いんですか?

赤松:波がありまして、性器の修正に関しては、警察が入った直後は、大幅に消し面積が大きくなるんですよ。でもその後、我々創作家というのは、基本的にはリアリティの方に行くんです。そうすると、どんどん消しがなくなってくる(笑)。

福井:つまり、公権力の規制を睨みつつの自主規制というのが絡み合っている。

赤松:PTAが色々言ってきたり、児童ポルノ法改正案の中にマンガの調査項目が入れられたり註8)、インターネット条例の時もそうでしたが註9)、そんなことばっかやってます。

福井:PTA全国協議会が毎年やっている「信頼のおけるメディア、おけないメディア」の調査で、テレビ、マンガ、ネットなどへの信頼度が今年は極端に落ちましたよね。註10

赤松:予算委員会の答弁などでも「なんで小説ならば良くて、マンガは規制すべきなのか?」という質問に対して、副総理が「マンガの方が目立つから」みたいなことを言ってました。註11)マンガは叩かれやすいメディアなんです、永井豪先生の頃からずっと。註12


  ヌードやポルノの概念は各国で様々

福井:演劇に関しては、性表現に関しては何か事件というものはありますか? 或いは、皆さんが気にされていることはありますか?

坂手:最後にスッポンポンになって終わる有名な作品とかありますよね。でも、日本では出来なくて、パンツ履いたままでやらされたりとか。

青井:アメリカの規定はすごくおもしろいんですよ。男子のフル・フロンタル・ヌードはOKなんです。女子はそれがOKじゃない。単なる裸か性表現か、外から見てもわからないから。

赤松:え、意味が判らない。

青井:男性はその部分に変化が起っていれば、ポルノと見なされてNGだけど。

赤松:え〜っ!?(笑)

坂手:アメリカはそうなんですよ。日本の場合は(性器が)見えるか見えないか。

赤松:日本は物理的なものですよね。

坂手:日本では、有名な『愛のコリーダ』裁判があるじゃないですか。あれは映画の性表現が揉めたんじゃないんですよ。映画の写真集があって、それに毛が1本写ってたんです。それでずっと揉めてたんです。註13

福井:私も仕事柄、相談を受けますが「丸々全部出しちゃうんだけど、どうか」っていうご相談が多いですよね。もっとすごいと「行為に及ぶんだけど」っていう相談もありました。
 性表現は、法の解釈で言えば「猥褻とは何か」というところにいくわけですよね。最高裁の最近の判断では、猥褻かを見る上で芸術性を加味するのですが註14)、反対意見もあってまだ定着してはいないし、問題は運用ですよね。これも波があって、当局の判断次第のところがあります。
 来日公演の場合、ヨーロッパではこれが当たり前なのに、前バリしろとかとんでもない、という反応からスタートします。警察はやはり即物的な判断をするので、主催者には「今、ここまでだと猥褻と判断されて踏み込まれる可能性がありますよ」ということを伝えます。それで「判りました、作り物を付けます」ということになって、本番を観に行ったら、どう見ても本物を扇風機みたいにグルグル回していて(爆笑)。

坂手:こういう話っていうのは、どうしてもオフレコになっちゃうんですよ。日本の裁判って長引くから、それを避けたい、避けたいという気持ちがはたらくから。

福井:たとえば1週間の公演だと、善し悪しはともかく、現実には踏み込まれる前に終わるということがあった。ただ、今はネットもあって告発しやすいし、会田誠さんの事件のように許せないと思う人がいれば、簡単に社会問題にしやすい註15)。その分、反対発信もしやすいですが。

赤松:永井豪先生の『へんちんポコイダー』は変身する時に、クルクル回すんですが、それは当時、大問題になりましたよ。

坂手:それは今は見られるんですか?

赤松:今はさすがに絶版だと思いますけど。

福井:ライブイベントもユーストで流しましょうとか、デジタルアーカイヴでとかいう話もどんどん高まっているわけじゃないですか。そうすると問題として顕在化しやすくなるというのは事実ですね。



註8児童ポルノ法案 (概要とマンガ、アニメ規制)
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」
新旧対照条文(平成25年5月29日に高市早苗議員外6名(自民、維新、公明)提出)

改正案は「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者、児童ポルノに係る電磁的記録を保管した者」に対して「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」と規定。
現行法の第二条3項の規定は、
(1) 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
(2) 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
(3) 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

問題となっているのは、(3)の曖昧な規定のまま「単純所持」を禁止し、その所持を捜査するため、家宅捜査やPCなどの開示が進めば、児童ポルノとは常識的に考えられないものまで捜査や処罰の対象になりかねず、児童ポルノの定義を厳密にするべきという議論や、警察の捜査権の拡大や冤罪の拡大への危惧がある。
また、「附則」に「検討条項」として、漫画・アニメという被害児童が実在しないフィクションの世界にまで法規制をおよぼす条項が盛り込まれているため、表現の自由を侵し、「実在する児童の人権保護」の目的を逸脱し、表現規制になると、多くの表現団体から反対されている。

日本雑誌協会「児童ポルノ禁止法」改正法案への反対声明
日本漫画家協会「児童ポルノ規制法案に向けての意見書
日本文芸家協会「児童ポルノ禁止法改定案についての声明
日弁連「児童ポルノの単純所持を犯罪化する法案に反対する会長声明
21世紀のコミック作家の会「児童ポルノ禁止法改定案に対する反対声明
全国同人誌即売会連絡会「「児童ポルノ禁止法」改定案への反対声明
他に、「日本アニメーター演出協会」「コミックマーケット準備会」「出版労連」「日本動画協会」も反対を表明。

2008年には自民党の森山真弓議員他2名による議員立法で衆議院第169回通常国会に所持の禁止を盛り込んだ児童買春・児童ポルノ処罰法改正案が提出され、2009年の衆議院第171回通常国会で民主党が、構成要件の不明確な3号規定を削除し、代わりに2号規定に性器等の露出、若しくは露出を伴わずともそれらが強調されている児童の姿態について新たに規制対象とする条文を付加した法改正案を提出しているが審議未了で廃案。自民党提出の改正案は、様々な指摘や反対にも関わらず、ほぼ2008年のままの内容で、2013年も国会で継続審議中。

ポルノと犯罪の関係に関しては、犯罪が減少するという研究がある。
創作表現による児童ポルノを合法化すると、子供への性的虐待が低下する(米研究)」

児童ポルノを容易に入手できる環境下では、子供に対する性的虐待が減少することが米ハワイ大学によるチェコの事例研究から明らかになった。
児童ポルノの単純所持が違法ではないデンマークと日本でも同様の研究が過去に実施されたが、どちらも子供に対する性的虐待が減少しており、今回の研究結果はこれと一致する。

マンガ・アニメが性犯罪を誘発する証拠は無いという研究結果
「二次元の児童ポルノは無害」と結論したデンマーク国法務省の報告書がある。
経緯
1.2010年6月、デンマーク国法務省が自国の性科学クリニック(Sexologisk Klinik)に対して、架空児童ポルノの所持等が人々を児童性的虐待行為へと導く可能性があるかどうかを明らかにするように要求した。
2.2010年9月、性科学クリニックは同業の機関や海外の専門家にコンタクトを取り、広範囲にわたる文献検索も行った結果、架空児童ポルノの所持が、児童性的虐待の実行につながるとする証拠は現在のところ存在しないと結論づけた。
3.性科学クリニックは架空の児童ポルノの流通と所持の禁止を延長する事は困難と考えられる、と結論した。
4.2012年、デンマーク議会はこの調査結果を根拠として架空の児童ポルノは違法なものでは無いと結論した。
5.コペンハーゲンポスト紙がこの件について報じ、世界が知るところとなった。
[記事のURL]
http://cphpost.dk/news/national/report-cartoon-paedophilia-harmless
http://nyhederne.tv2.dk/article.php/id-52032032:klinik-tegnet-b%C3%B8rneporno-skader-ikke.html

註9インターネット条例
日本劇作家協会 2010年12月6日付け「東京都青少年の健全な育成に関する条例の再改定案に反対するアピール
[該当部分]
インターネット利用の条項では、本来青少年の教育指導について第一次的な役割を担う家庭での教育に対し、行政の介入、さらに曖昧な定義に基づく実質的な規制を行うとするものであり、国の基本理念に反し、憲法第94 条の定める条例制定権の範囲を明らかに逸脱した、違法なものである、との指摘があります。
有害情報を遮断するフィルタリングに、無害なものや有益なものまでも遮断する不備があることは衆知の通りですし、フィルタリングを利用するかどうかは青少年個人もしくは保護者との相談で自主的に判断すべきものですが、利用しない保護者に対し、都はその理由の事業者への提出と、そのリストの記録・保存を義務づけ、事業者への立ち入り調査も出来る規定になり、自主性尊重とはほど遠い、市民監視の条項も変わらないままです。
また、保護者の責務の条項では「青少年がインターネットを利用して違法な行為をし、又は自己若しくは他人に対し有害な行為をすることを防ぐため」と、「有害な行為」という曖昧な文言は残したままで、保護者に監督責任を義務づけています。


註10PTA「信頼のおけるメディア、おけないメディア」
子どもの親、メディアに警戒心 影響調査、テレビが急落
小中学生をもつ親の間で、テレビ、漫画、パソコンなどのメディアに対する評価が急落していることが、日本PTA全国協議会の調査でわかった。とくにテレビと漫画が子どもに与える影響について、「よい」と答えた保護者は前年度から約3割減っていた。

参考:平成23年度版・公益社団法人日本PTA全国協議会
子どもとメディアに関する意識調査 調査結果報告書

註11:予算委員会の答弁
「「ローゼン閣下」麻生太郎副総理に失望の声 日本のマンガ、アニメを児童ポルノ禁止法から守ってくれそうにない!
山田議員は、マンガやアニメに比べなぜ小説は問題視されないのか、と再び副総理に質問した。副総理は、「小説の方が子供が読まないんですよね。漫画の方が子供が読むものだから、どうしても漫画の方に目が行く」2013年5月8日参議院予算委員会

註12:永井豪、PTA
ロングインタビュー「永井 豪(3)」
68年にはエッチな学園ギャグ漫画『ハレンチ学園』を発表。
この作品で永井豪はブレイク、と同時に、PTAや教育委員会から大ブーイングを受けることになる。ぶっ飛んだ教師たちのキャラクターや作中に頻出するスカートめくりなどが、教育上好ましくなかったからだ。
「最初は抗議されてもきちんと説明しようとしていたのですが、聞いてもらえないし、キリがないので、“どうなってもいいや” “最悪やめちまえばいいんだ”って、戦うことにしたんです」
物語は第一部後半から、主要キャストが教育委員会(という名の組織)にみな殺しにされるという血みどろ社会派ドラマへと転換する。自身とPTAとの戦いを、そのまま作品にしてしまったわけだ。

註13:『愛のコリーダ』裁判
この作品の脚本と宣伝用スチル写真等を掲載した同題名の書籍が発行されたが、その一部がわいせつ文書図画に当たるとして、わいせつ物頒布罪(刑法175条)で監督と出版社社長が検挙起訴された。対する被告人側は「刑法175条は憲法違反である」と主張し憲法判断を求めた。しかし、一審二審とも従来の判例を基本的に維持しながらも「当該書籍はわいせつ物に当たらない」として無罪とした。

大島渚、その横顔
フランスのアルゴス・フィルムと大島渚プロダクションの合作『愛のコリーダ』を監督。阿部定事件をモチーフにしたハードコア映画である本作は76年に膨大な修正を経た版のみが国内公開されたが、海外での高い評価をよそにスチール写真と脚本が掲載された単行本『愛のコリーダ』が警視庁に押収され、東京地検はわいせつ文書として大島を起訴。
映画版のスケープゴートとして単行本が摘発されたこの『愛のコリーダ』裁判で、大島は「芸術か猥褻か」ではなく「猥褻なぜ悪い」の論点で戦い、79年10月に東京地裁で無罪判決、控訴審も82年6月に無罪。
『愛のコリーダ』事件控訴審判決

註14:最高裁の最近の判断では、猥褻かを見る上で芸術性を加味する
「メープルソープ事件」最高裁第三小法廷判決
男性性器を画面の中央に目立つように配置したメープルソープの写真集の作品について、最高裁多数意見は、メープルソープの社会的な評価や想定される読者層、写真の分量やそれらがモノクロであり、直接的な性交などの描写がなかった点などに触れ、「本件写真集における芸術性など性的刺激を緩和させる要素の存在、各写真の写真集全体に占める比重、その表現手法等の観点から写真集を全体としてみたときには、主として見る者の好色的興味に訴えるものと認めることは困難」と判断した。

註15:会田誠さんの事件
森美術館の「会田誠展」は“性暴力”にあたるのか 館長は展示を続ける意向
森美術館が2012年11月17日から開催している美術家・会田誠さんの展示の一部が「性差別」にあたるとして、市民団体「ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)」は1月25日付で同館へ抗議文を送付し、「女性の尊厳を著しく傷つける諸作品」の撤去や、同館の意見を直接聞く話し合いの場を設けるよう求めた。森美術館は特に刺激が強いと思われる作品は、18歳未満が入場できない特別なギャラリーに展示し、会期末まで展示を続けた。

2013年2月6日「会田誠展について
みなさまへ   会田 誠
僕の作品群の中には、性的なテーマとは限りませんが、人によってショッキングと受け取られる表現があると思います。そういう場合、僕は必ず、芸術における屈折表現――僕はそれをアイロニーと呼んでいますが――として使用しています(あるいは、僕個人はこの言葉をあまり使いませんが、『批評的に使用しています』と言い直してもいいのかもしれません)。けして単線的に、性的嗜好の満足、あるいは悪意の発露などを目的とすることはありません。また「万人に愛されること」「人を不快な気分にさせないこと」という制限を芸術に課してはいけないとも考えています。発表する場所や方法は法律に則ります。



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   児童ポルノ禁止法案の問題

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日本劇作家協会プログラム

2017年度のプログラム(全11企画)

11月2日(木)〜21日(日)
カムカムミニキーナ
『>(ダイナリィ)
〜大稲荷・狐色になるまで入魂〜』<

11月17日(金)〜26日(日)
燐光群
『くじらと見る夢』(仮)

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