第1回劇作家協会新人戯曲賞
1995年度
後援 (株)ジャストシステム
一次選考通過作品一覧(24作品)
季節の地獄 | 可能涼介 |
---|---|
天神町一番地-広島・あの頃・消えた町 | 楠本幸男 |
職員室の午後 | 長谷川孝治 |
夢の森に魚の泳ぐ | 戸中井三太 |
神の使者のパスポート-夢二晩年の滞欧記より | 乾一雄 |
銀河の祭りの夜に-銀河鉄道の夜より | やのひでのり |
タシケントの伝説 | 川口一史 |
夢の途中 | 平田慎司 |
アンデルセンの椅子 | 石澤富子 |
アンバランスを冒険しよう | 菅沼尚宏 |
空の月、胸の石-それでもきみといつまでも | 永山智行 |
吊り天井につぶされて | 前川和雄 |
大走者網 | 赤井俊哉 |
まんどらごら異聞 | はせひろいち |
-新編-遠くを見る癖 | 高見亮子 |
北の陽炎-シャクシャイン伝説 | 岡本長児 |
OTO-デジベルジャングルにグラマー美人 | 池田美樹 |
上海情歌 | 藤原美鈴 |
玉川上水 | 落合一修 |
我愛ニイ | 田中守幸 |
エリオン | 西尾彰泰 |
彼岸から 水波の隔て 神の旅 | くまがいマキ |
INAMURA走れ! | 丸尾聡 |
カスパー彷徨 | 詩森ろば |
最終候補作品一覧(7作品)
天神町一番地-広島・あの頃・消えた町 | 楠本幸男 |
---|---|
職員室の午後 | 長谷川孝治 |
空の月、胸の石-それでもきみといつまでも | 永山智行 |
大走者網 | 赤井俊哉 |
-新編-遠くを見る癖 | 高見亮子 |
彼岸から 水波の隔て 神の旅 | くまがいマキ |
INAMURA走れ! | 丸尾聡 |
受賞作
職員室の午後 | 長谷川孝治 |
---|
佳作
彼岸から 水波の隔て 神の旅 | くまがいマキ |
---|
最終選考会は、1995年12月16日、六行会ホール(品川)において公開で行われた。 審査員は、井上ひさし、別役実、斎藤憐、山崎哲、鴻上尚史、横内謙介、平田オリザ(渡辺えり子、北村想は書面参加)。 受賞作と最終候補作をすべて掲載した「優秀新人戯曲集1996」は、 ブロンズ新社から発売中(本体1,748円+消費税)。 ISBN4-89309-114-X C0074 |
選考経過
12月16日午後3時定刻に開会された最終審査会は、全国から集まってくれた最終候補者6名(長谷川孝治さんは都合により欠席)を含む約100名の“観客”を前に、小松幹生の司会のもと、まず、7名の審査員が分担して、客席に参加している観客に候補作7本を紹介することをかねて、その特徴と長所を述べるところから始まった そして応募順に1作品ずつをマナイタに上げて、討論を開始。 楠本幸男さんの「天神町一番地~」については、戦争直前の広島の市井の人々の姿が活写されていることと、それにダブって並列されている昭和20年8月のエノラ・ゲイの重要さが指摘され、その魅力が、欠点もあるとしながら井上ひさし、斎藤憐審査員から、おおいに推賞される。しかし、広島を場所として選びながら、精神的な原爆の後遺症を抱えて生きる今の人々の視線が感じられないと山崎哲審査員が述べ、また、人々が現実にあんなに戦争に反対していたとはとても思えないと平田オリザ審査員。 長谷川孝治さんの「職員室の午後」は、写実劇としての力を充分認めながら、いかにも長いと感じさせる所以について別役実審査員が説くと、横内謙介審査員も、自分の“家内”も学校の先生をしているが、「職員室というものはあんなに和気アイアイとはしていない。もっと殺伐としている」と、“静かな演劇”の流行に異を唱える。いや、あれは、と平田オリザ審査員が、「作品の設定の日は普段の日常ではなく、研修生もいる特別の日なのだ」と反論。登場人物への作者の悪意ある視線が大事であること、そしてこの作品にそれがあることを指摘する。 永山智行さんの「空の月、胸の石~」は、特に優れているとは言えないかもしれないが、芝居をやってきた者のある切ない心情が胸に迫ってくる、その魅力は捨てがたいと鴻上尚史審査員。別役審査員も同調するが、劇中劇がよろしくないと指摘する。 赤井俊哉さんの「大走者網」は、そのギャグの量と質の両方にわたって抜群の腕前が全審査員に賞賛される。しかし、「これが現在の演劇界に蔓延している遊興気分にのっかっている」のが気にかかる、それへの悪意が欲しいと別役審査員。いや、笑いを連発するのは、恐れがあるからだと横内審査員。“にぎやかな演劇”を代表する作品として是非推したいと主張する。 くまがいマキさんの「彼岸から~」は、別役審査員が、その独特の戯曲解読術を見せて、これがたんなる一人の女の回顧談話ではなく「女性の体そのものがドラマである演劇にほかならない」ことを説く。つづいて井上審査員もこのモノローグドラマの新しさに注目すべきだと指摘する。しかし、この女性が自殺するとはどうしても思えないと鴻上審査員。また横内審査員が、前回、九州でのコンクールで一人芝居が入選したことを考えると、またここで一人芝居が入選することになるのは演劇のあるべき姿としてはよろしくないのではないかと、危惧をつけ加える。 丸尾聡さんの「INAMURA走れ!」は、新宿のホームレスのからむ犯罪を捜査するのに地下街に存在する警視庁第六分室を設定したことへの魅力を斎藤審査員と井上審査員が指摘し、しかし、子供の時代に帰る展開に疑問を呈する。 各作品についての議論をひとまず終えて、いささか疲労の色の見える審査員たち。時間は1時間半をとうに過ぎている。司会者が「各自何を推すか態度を明らかにしていただきます」と立ち上がって発言。鴻上審査員が「え? 無記名投票じゃないの?」と驚きの声を発するが、「いえ、それでは公開審査の意味がありません」と宣告。端から順にそれぞれ2作品ずつを挙げていく。 集計すると、楠本さんと長谷川さん、くまがいさんが3票で並び、永山さん、赤井さんが2票、高見さんが1票と白熱。 舞台に置かれたボードに司会者によって書きなぐられた数字を眺めながら、しばし沈思黙考するも、3票を得た3作品で最終の審査に入ることを決定。 ふたたび議論を開始。くまがいさんの作品について特に長い時間がさかれた挙げ句に、最終投票となり、7人の審査員の各人1票の挙手によって、長谷川さんが4票、くまがいさんが3票、楠本さんは投票なしという結果となる。 司会者はこの2本でもう一度議論しますかと問うが、このままで最大数を得た長谷川孝治「職員室の午後」を受賞と決定し、同時にくまがいさんを佳作とすることを決め、客席に向かって異議はありませんかと問うと、客席は拍手をもって同意する。 そして、最後まで熱心に、あるいは時おり放たれる審査員たちのユーモラスな発言に笑いを交えながらつきあってくれた会場の約100名の観客は大いなる拍手をもって受賞者を祝い、同時に審査員たちの疲労をねぎらったのだった。 |
---|