第12回劇作家協会新人戯曲賞
2006年度
後援 一ツ橋綜合財団
平成18年度文化庁芸術団体人材育成支援事業
一次選考通過作品一覧(21作品)
| 乞局(こつぼね) |
下西啓正 |
| モイライ(MOIRAI) |
吉村健二 |
| 平日の側 |
高橋義和 |
| 突端の妖女 |
岩崎裕司 |
| 宮さんのくんち |
山之内宏一 |
| 雨の匂いに |
狩野哲郎 |
| 青を繋ぐ |
日埜トヲフ |
| あっかんべぇ |
高崎秀之 |
| 風穴 |
松田清志 |
| からっぽう |
竹重洋平 |
| 夏暮れの裸婦像、または父殺し油地獄 |
沢口侑美 |
| 不肖ノ使徒タチ |
柳井祥緒 |
| 今はチキンを |
広田淳一 |
| 報われません、勝つまでは |
田上 豊 |
| 返事 |
新井 哲 |
| ダム |
嶽本あゆ美 |
| はなやもめ |
くらもちひろゆき |
| 蜜の味 |
石神夏希 |
| 人間の詩 |
山平貴雄 |
| マトリョーシカの鞦韆(ふらここ) |
島林 愛 |
| スカイ/フォーカス |
戒田竜治 |
最終候補作品一覧(6作品)
| 突端の妖女 |
岩崎裕司 |
| 宮さんのくんち |
山之内宏一 |
| 風穴 |
松田清志 |
| 返事 |
新井 哲 |
| ダム |
嶽本あゆ美 |
| マトリョーシカの鞦韆(ふらここ) |
島林 愛 |
受賞作
最終選考会は、2006年12月17日、紀伊國屋ホール(東京都新宿区)において公開で行われた。
審査員は、川村毅・鴻上尚史・斎藤憐・坂手洋二・永井愛・マキノノゾミ・横内謙介。
受賞作と最終候補作をすべて掲載した「優秀新人戯曲集2007」は、
ブロンズ新社から発売中(本体1,600円+消費税)。
ISBN4-89309-405-X C0074
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総評/選考経過/選評
(劇作家協会会報「ト書き」41号より)
総評・選考経過
川村毅
まずは『突端の妖女』について。永井氏「筆力があるが、わざと関係を複雑にしているように読める」、鴻上氏「わからない。破綻なく書けてるがホームランでもない」、マキノ氏「作品としてひとつの像を結んでいない」といった意見が出た。
次に『宮さんのくんち』について。横内氏「とってもわかりやすい。人物が予定調和。古いストーリーで粗さも目立つ。基本的にはエールを送りたいが、叱咤もしたい」、マキノ氏「いいなと思う反面、粗さが目立つ」と両氏とも粗さを指摘した。坂手氏は「登場人物がみんないい人であるのが、解せない。長いので四分の一ほどカットしたほうがいい」と述べ、さらに『突端の妖女』の長さも無用と指摘した。
『風穴』。横内氏「登場人物のアスカがしっかり市民感覚を持っている。大人が描かれていて好もしい」、永井氏「アスカにもっと大きな人物イメージが欲しい。作品に社会が入ってきていない」、斎藤氏「劇画的な気がする」、坂手氏「ここには我慢の構造が描かれている」といった意見が出された。
四作目の『返事』について。鴻上氏「筆力はあるが、メタファーの力が弱い。惜しい作品だ」、坂手氏「登場人物が多すぎる。イメージはおもしろい。原爆のイメージは鮮烈である」、斎藤氏「最初の三ページが圧倒的にいい。やられたという台詞もあり、もしかしたら今回のなかでこれが一番好きな作品かも知れない」
次は『ダム』。斎藤氏「ダムを巡る人物、設定が綿密に描かれている。母娘二代のストーリーもよく書けている。やられたという感じ」、マキノ氏「圧倒された」、鴻上氏「女性の哀しさがよく出ている」、永井氏「もしハッピーエンドにならなかったら秋元松代の世界。土地の神話がよく書けている」と述べた。坂手氏からは、主人公の女性の妊娠の設定が安易だという意見も出された。
最後の『マトリョーシカの鞦韆』。横内氏「子宮がえりを描いているが、なぜ子宮に戻るのかがわからない」、永井氏「へたうまか下手なのかわからない」、マキノ氏「わからない。二十代の女性が何を考えているのかわからない。この戯曲もわからない」と述べた。
一通り意見が出たところで、一回目の投票。ひとり二作品を選ぶということ。
川村が『返事』と『ダム』。横内氏『風穴』と『宮さんのくんち』。斎藤氏『返事』と『ダム』。マキノ氏『風穴』と『ダム』。坂手氏『風穴』と『返事』。鴻上氏『返事』と『ダム』。永井氏『ダム』と『宮さんのくんち』という結果になり、休憩後、票を多く集めた『返事』、『ダム』、『風穴』に絞ることに全員が同意した。
『風穴』を推すのは横内氏と坂手氏で、横内氏は神話的な広がりを持っていると述べ、坂手氏は、ある地域について書かれていると語った。それに反対したのは川村で、深読みではないかと意見を述べた。さらに川村の『ダム』の作者は新人離れしている、新人ではないのではないかという疑問には、斎藤氏から最終候補に残した時点で我々は新人と見なしているはずだという意見が述べられた。
三作品のなかから一作の投票が行われた。結果は斎藤氏『ダム』。鴻上氏『ダム』。横内氏『風穴』。永井氏『ダム』。川村『返事』。マキノ氏『ダム』。坂手氏『風穴』。と『ダム』が四票とトップとなった。それでも『風穴』を推す坂手氏より、『風穴』と『ダム』で決戦投票という案も出されかけたが、『返事』を推した川村がすでに『風穴』より『ダム』を評価する旨を述べているため、無駄と判断され、最優秀賞は『ダム』に決定した。
最終投票が終わって、やたらに自らの作戦誤りを告げ、嘆くマキノ氏が印象的であった。
選評
川村毅
六作品のうち、『返事』と『ダム』がいいと思い、この二本の一騎打ちになるだろうと予想していたので、『風穴』の評価は意外だった。私もけっして嫌いではなく、よく書けていると思ったが、やはり地方都市グラフィティといった小品としか読めない。
『ダム』は誰でも褒めるだろうと予想した。意外だったのは『返事』への予想外の低い評価で、別にすこぶるわかりにくい作風でもないのに、何が他の審査員にとってたいしたことないと思わせたのか、よくわからない。発想のジャンプの仕方が唐十郎や野田秀樹を思わせるところが弱さといえば弱さだが、正直いって演出したいと思ったのは、圧倒的に『ダム』より『返事』だ。
『ダム』はよく書かれていて、これから舞台で上演されたものを見なくてもいいと思わせるところが、つまらないといえばつまらない。「よくできました」のハナマルの『ダム』より、「なんだかおもしろい」の『返事』を今でも支持するが、『風穴』が『返事』より二馬身ほどリードしたのはかえすがえすも予想になく、しくじった。
鴻上尚史
『ダム』の嶽本あゆ美さんの筆力に、まず感動した。主人公の女性のひりひりとした孤独が、胸を打った。構成力も安定しているし、授賞は順当と考えた。
他には、『返事』の描写力に感動した。「僕達は憎しみを遠くへ飛ばす技術を持っていたが、優しさを遠くへ飛ばす技術を持っていなかった」という文章など、とても素敵だ。構成にいまひとつ工夫が欲しかった。
他には、『宮さんのくんち』の素朴さとあったかさに感動した。もうひと工夫あれば、もっと素敵な作品になると思う。特に、女性の描写がカギだろう。
授賞パーティーが楽しく、それぞれの作者と話せたのは、有意義でした。
斎藤憐
この十年の間に、一九六〇年代七〇年代の百倍以上の新作戯曲が書かれただろう。劇作を志す人の数も当時の数十倍に増えたことも喜ばしいことだ。
だが、この十年に生み出された作品の中で、二十年、三十年後に再演されるだろう作品がどれほど残ったかと考えると、いささか心許ない。今回、たくさんの応募作を読んで感じたことは、観客の顔が見えていないのではないかということだ。
「新人戯曲賞」を創設してからたくさんの劇作家が登場した。だが、その作家たちの多くはその後も、千人を越える観客を劇場に集めることができないでいるようだ。現在の日本には、出演料がもらえなくても芝居をやりたい俳優たちがたくさんいて、新作戯曲の供給不足が慢性的に続いているせいだと思われる。それが現代日本の「豊さ」だ。
六〇年代七〇年代の作家たちのように、時間と手間暇をかけて戯曲を書いて行かねばと自分に言い聞かせている。
坂手洋二
岩崎裕司さんの『突端の妖女』は、ちょっとずついびつな人物を組み合わせた世界だが、「ちょっとずつ」が重なってしまうと、それがただの「基調」になってしまうこともあると気づいた方がいい。山之内宏一さんの『宮さんのくんち』は手堅く書かれているが、できれば新しさ、個性がほしい。新井哲さんの『返事』は、世界としては好感が持てるが、時には群像劇であることをやめるべきだし、作品の「へそ」のようなものがもっと力強く立ち上がってきてもいいのではないか。嶽本あゆ美さんの『ダム』は、個人的には、古いし、台詞で説明しすぎていると思う。「語ってしまう」のではなく、演劇の独自性への信頼を求めたい。島林愛さんの『マトリョーシカの鞦韆』、これもちょっとずついびつな可愛らしい世界であるが、演劇にとってシーンを積み重ねるということがどういう機能を持っているかという考察を経て、構成的な強靱さを手に入れるべきだと思う。松田清志さんの『風穴』は、清新さがあるし、説明的に書き込みすぎない潔さを持っている。登場人物のキャラクターがもっとプロットそのものとかみ合えば、スケールが大きくなり、説得力も増すと思う。
永井愛
『ダム』は、ダム建設をめぐる攻防と男女の愛憎を絡ませながら、大地の存在を際立たせることに成功した。呪術性を放つ作風には、久々に秋元松代的な体力を感じる。
『宮さんのくんち』は、群像劇としての活力が楽しい。細部のリアリティーがもっと突き詰められれば、壮大なドキュメンタリードラマになったのにと惜しまれる。
『風穴』の着眼はいい。だが、鬱屈が身内間でストレートに語られ過ぎ、内部に拮抗する外部が見えてこないのが物足りなかった。
対照的に、『突端の妖女』は語り過ぎる愚を避けた知性は感じるが、その抑制によって何かが達成されたとは思えない。私には技巧ばかりが目についた。もっと愚直になっても損なわれない筆力があるように思うのだが。
『返事』には、きっとまだこの先がある。面白いイメージ、いい台詞は随所にあるのに、劇的統合には至らず、散漫で冗長だ。
『マトリョーシカの鞭韆』は、この幼い魅力を失わずに、幼くない世界を描けたら大したものだが、まだ幼さに見合う世界にとどまっていると感じた。
マキノノゾミ
山之内宏一さんの『宮さんのくんち』に好感を持った。内容も決して刺激的なものではないのだが、オーソドックスに一所懸命ていねいに書こうとしている姿勢がいい。五十三歳の処女作というのもいい。この先技量があがった時にもう一度ご自身でリメイクに挑戦されるといいと思う。
新井哲くんの『返事』は、離れ小島が戦後日本の暗喩らしいことは何となくわかるのだが、相変わらず戯曲としてはすばらしく難解である。とはいえ、台詞自体には人を食ったようなユーモアがあり、実際に上演を観てみたい作品だと思った。その上でないと判断できない。
個人的な好みでいえば、登場人物すべてがキラキラと魅力的で終幕に爽快感もある松田清志くんの『風穴』がイチ押しだったのだが、ゆるぎない筆力とスケールの大きさをそなえた獄本あゆ美さんの力作を無視するわけにはいかず、最終的には『ダム』に票を投じた。
横内謙介
松田さんに期待する
『ダム』の受賞に異論はない。今後の演劇界を牽引するスケールの大きな書き手の登場だと思う。
個人的には『風穴』が好きだった。吹きだまりのような田舎の村で、ひたすら崩壊して行く家を、じっと見つめている中学生アスカの、留まらぬ毒舌と、ふと洩れる溜め息のような本音。無様に右往左往する兄貴や大人たちとは対極に立ち、冷静に現実を受け止めて、ココロの崖っぷちで一人踏ん張る、この少女の姿は神話のヒロインを思わせた。
ただ、この村の有り様に書き込みが足りてなかったかもしれない。坂手氏が重大なものが隠されている、と指摘していた、この村の特殊事情がもっと明確に表現されていたら、少女が闘っているものの正体がさらに鮮明になったかもしれない。次作に期待する。
五十二歳の新人が書いた『宮さんのくんち』の構想力とユーモアに拍手。こういう新人を、協会の戯曲セミナーでも生みたいと思う。
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