戯曲セミナー<インタビュー>前川知大 

前川知大さんは現代を代表する劇作家の一人です。劇作だけでなく映画、小説、漫画原作など幅広く活躍しています。
 
 ── 創作活動のスタートは映像からなんですね。

 大学の映画サークルです。物語をつくりたいっていうのがベースにあって、シナリオを書いてはいたんですけど、卒業したら機材がなくて映画もつくれくなった。で、シナリオや小説をいろいろ書いてみて、ああ自分は会話が好きなんだなって気づいたんです。
 その頃、映画に出演してくれた大学の劇研メンバーが劇団をつくった。何本か書かせてもらって、面白いから前川を座付き作家にしてやろうぜって始まったのがイキウメです。結成は2003年でした。

 ── 前川さんの劇作のスタイルはどうやってつくられてきたんでしょう?

 芝居の本を書き始めたころは、映画的に書いてしまってシーンも多すぎたんでしょうね。演出家にどうやっていいかわからないと言われた。それから演劇を観るようになりました。 鴻上尚史さんや永井愛さんの本や、平田オリザさんの「演劇入門」も読んで、基本的な1シチュエーションの芝居を書いてみたんですよ。演劇を少し勉強しながら2、3年、5作品くらい書いているうちに、映像みたいに書いている人もいるな、演出でどうにかできるんじゃないかなと思い始めた。そこでもう一度、カット割りでシーンが変わるような本を書いたんです。イキウメの2本目でした。
 演劇のテンポ感というか、会話の密度みたいなものには徐々に慣れていきました。そうなると、演劇で表現できるものは映像より断然多い。

 ── 劇団以外の公演も多く、映画、小説、テレビドラマ、漫画原作なども手がけていますよね。

 いろいろやってるように見えて、実はそんなにたくさんのことはやってないんですよ。 劇団の創作から派生したものを外に持っていくことが多くて。映画の『散歩する侵略者』と『太陽』もそうです。漫画は、演劇の好きな編集者が、前川さんの原作でなにかやりましょうと言ってくれて。劇団でやった短編集のひとつが、連載漫画にできそうな設定だったことから始まりました。
 物語やそのタイトルが一人歩きするっていうのをやりたいなと思っていて、コンテンツを外に持っていくことには積極的です。イキウメも前川も知らないんだけど、『散歩する侵略者』っていう話は知っている。こういう広がりが面白いし、物語の強さだと思っています。

 ── 小説はいかがですか? 小説や映像と演劇では、それぞれ得意なことが違うと思いますが。

 小説のオリジナルは短編2本だけなんですが、自分の頭で想像したものを、なんにも束縛されずに全部書けて、それがそのまま形を決めずに伝わる面白さがあります。ただ自由なぶん難しくて。芝居だと、限られた条件の中で書くときの想像力の働かせ方があるじゃないですか。お金がないから素舞台でこれをどうやって表現しようかとか。条件がアイデアを生んで、話の設定ができあがることもある。演劇でつくるからこそ発想した物語の根っこって、すごく面白いと思う。
 あと、映像は形になるまでのプロセスが多いけれど、演劇を書いて試そうと思ったら、役者が集まってリーディングすればいい。とりあえず形にしてみることなら演劇は一番早いし、クリエイティブな自由が保証されている場所です。ここから面白いものが生まれて、漫画だったり映画だったりテレビドラマだったり、全く別の形に出していくってアリだなあと。「これってどこでつくられたの?」「元々は演劇なんです」っていうものが、もっと増えていくといいと思う。

 ── セミナーの講師として授業では、生徒さんにどういうことを伝えてますか?

 セミナーにはほんとにいろんな方がいますよね、年齢層もばらばらで。でもみんな熱心で食いつくように聴いてる。ぼくの作品を見たことある人いますかって授業で聞くと、手が挙がるのは半分くらい。半分くらいの人は見ていないわけですからそれを前提に話します。
 ぼくの授業のパターンとしては、こういうふうにやってきた、自分の経験の中でこれはすごく力になった、そういう話をしています。この時期にはこんな迷走もしたよ、とも話します。

 ── 受講を迷っている人になにか伝えることはありますか?
 
 劇作家志望の人にはもちろんなんですけど、俳優とか演出家とか制作とか、演劇に携わる人みんなに勧めたいです。いろんな劇作家がそれぞれ自分のやり方を話すから、戯曲がどうつくられているのかわかって、戯曲が読めるようになると思う。演劇の一番根っこが戯曲だから、その理解を深めるためにも。
 映像をやる人にも役立ちます。会話だけで成立させることを学んでいける。また、シナリオライターって、オリジナルが書ける人が多くはないっていう話をけっこう聞きます。その点、演劇をやる人は、なにか書きたいものがあって、オリジナリティがある人が多い。小劇場から深夜ドラマの脚本とかに引っ張られることもあるようですね。
 あと、戯曲って趣味になるじゃないですか。映像シナリオを趣味で書く人はいないけど、戯曲の場合は、書いて友だちで集まって声に出して読めば一応完成する。ものすごく可能性があるものならそこからばっと広がっていくから。なにかを始めるためにいい場所なんじゃないかなと思いますね、戯曲って。



前川知大 イキウメ
劇作家、演出家。1974年生まれ。新潟県出身。2003年に「イキウメ」結成、2013年より「カタルシツ」開始。2010年『関数ドミノ』『奇ッ怪~小泉八雲から聞いた話』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、2011年『プランクトンの踊り場』で鶴屋南北戯曲賞、2012年『太陽』で読売演劇大賞・最優秀演出家賞、読売文学賞。2014年にはスーパー歌舞伎も手がける。2005年初演の『散歩する侵略者』は舞台として再演を重ね、2007年に小説、2017年に映画・TVドラマ公開(いずれも黒沢清監督)。『太陽』は劇団での再演に加え蜷川幸雄氏の演出でも上演、2016年に小説および映画公開(入江悠監督)。コミック原作に『リヴィングストン』(片岡人生 漫画)。
 

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