戯曲セミナー<インタビュー>長田育恵    

長田育恵さんは2007年度の「戯曲セミナー」の卒業生です。いまではプロの劇作家として大活躍しています。

 ── 長田さんは受講前に、ミュージカルを書いていたそうですね。
 
 大学のときはミュージカル研究会に入っていて、卒業後は社会人をしながら、主にファミリーミュージカルを書いてました。でもそのうち現代演劇を書きたいと思い始めて。
 ちょうどそのときに「戯曲セミナー」というものがあることを知って、ここでゼロから学ぼうと思ったんです。ちょうど30歳になるときでした。やっぱり転機だったのかもしれないですね。

 ── 実際の講義はどうでしたか?

 ミュージカルの脚本を書いてきたから、大体の基礎はわかってるんじゃないかなとも思ってたんです。でも講義で聞くことは知らないことばっかりでした。横内謙介さんやマキノノゾミさんや坂手洋二さんが挙げてくれた戯曲、何ひとつ読んだことがなかったんですよ。ともかく講師の先生方が挙げるものは全部読んで、芝居もそこから集中的に見て。
 斎藤憐さんは、戯曲で一番大切なことは登退場だっておっしゃった。登場する人物が持ってくる情報で物語が進むよう、戯曲は構造的にできているって。そういう骨組みの話も新鮮でした。
 人間を書くんだっていうことも初めて知りました。キャラクターを書くのではなく、生の人間の皮膚の内側や息吹みたいなものを書く。本当に腑に落ちたのは、セミナーを終えて旗揚げして、俳優さんと一緒に自分で上演活動を始めてからなんですけど。

 ── そのほかに印象に残っている講義は?

 土田英生さんの講義では、ふたりの人物の関係を5行の台詞で表すっていうのをやりました。そういう意識で台詞を書いたこともなかったです。だからうまく書けないんですけど、できないことはできるようになればいいから、これから台詞を書くときには意識しようって考える。
 プロットの講義では、自分があまりに書けなくて愕然としましたね。プロットって、あらすじとか主人公の気持ちとか見えないものを書くのではなくて、起こる事柄や行動など目に見えるものだけを書くものだと言われたんですが、書き出す前に行動なんてわかるわけないじゃん、書いてみないとわかんないよって思って。でも、プロットを敢えて捻り出そうとすると、これまでなかった思考回路が現れる。それまでは主人公のことしか考えられなかったのが、サブキャラクターのオープニングからエンディングまでの人生を大事に書けるようになったりもするんです。
 長谷基弘さんから、事柄を一単位ずつカードに書き出して、シャッフルしてストーリーを組み立てるという話も聞いて、「書き出す」ということはもう執筆作業の最終工程、ともかく自分の歩き出す地面をちゃんと固めてから書き出すんだって思ったりもしました。

 ── クラスの雰囲気はどうでした? 毎年だいたい50人くらい、10代20代の方から60代70代の方まで集まっています。

 演劇は趣味っていう方たちもたくさんいて楽しい雰囲気でした。でも書くことを職業にしたいという、私と同じぐらい真剣な人もいっぱいいて。私も熱をもらうし、私が他の人のための熱にもなるし、どこまでがんばっても恥ずかしくないっていうのがすごく心地よかった。

  ── プロの劇作家を目指す人、趣味で演劇を学びたい人、映画や小説を志す人・・このセミナーはどうでしょう?

 どんな方でも受けて損なことはひとつもないと思います。人生の新しい引き出しを得られます。観劇が趣味なら、お芝居の新しい観点を得られる。小説やシナリオを書こうとしている方にとっても、作品の構造や柱の立て方、登場人物の行動原理を、こんなに教われる場所は他にはないんじゃないかな。
 人間をどう書くかってことが根本だと思うんです。何をやるにもまず、この根っこを捕まえないといけない。演劇はお客さまの目の前でさらされながらやるものだから、逃げ場がないんです。頭のなかにふわっと現れた登場人物を、指先でふわふわって書いてたら木っ端微塵にされる。生身の観客に見せるために、生身の俳優と一緒に、人間をちゃんとつくっていかなきゃいけない。その核を先に教わったほうが、映像のシナリオを書く場合もわかりやすいと思います。

 ── 戯曲を書くということについて思うことがあれば。

 何千というお客さまの前に生身で立っている俳優は、一言も自分の言葉を話すことができないんだって気づいたとき、愕然としました。私が書いた言葉だけを武器にやりとりしてくださいだなんて、ほんとに台詞って怖いと身に沁みます。生半可なものではいけない。
 私はゼロの状態でセミナーに来て、それから劇団を旗揚げして、一作ごとに何かを克服するスピードが早くなってるなと我ながら思うんです。やっぱり恐怖にさらされたり痛い目を見ると、人間は必死にやる。この10年はほんとにそういう10年でした。作品の責任を引き受けるし痛い目に遭うのは自分だから、実践こそが一番の吸収だと思って必死になれたんです。だから、戯曲セミナーに来て実践の方法を手に入れると、変われるよって思います。

 ── 戯曲セミナーに通ったことは、長田さんにとって、大きなことでしたね。

 人生を変えてくれました。最初は小さな金額ではないから躊躇したんですけど、でもそれで未来への切符が手に入る。2007年の戯曲セミナーに来なかったら、私のいまは確実にないですから。




長田育恵 てがみ座主宰、NOTE Inc.所属
劇作家。1977年生まれ。東京都出身。2007年に「戯曲セミナー」を受講し、翌年に同研修課で井上ひさし氏に師事。2009年「てがみ座」を旗揚げし、全公演の戯曲を手がける。2015年『地を渡る舟』(再演)で文化庁芸術祭演劇部門新人賞、2016年『蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞―』で鶴屋南北戯曲賞。2018年には青年座『砂塵のニケ』、てがみ座『海越えの花たち』、PARCOプロデュース『豊饒の海』の脚本に対して紀伊國屋演劇賞個人賞。NHK特集ドラマ『マンゴーの樹の下で〜ルソン島、戦火の約束〜』などドラマや映画のシナリオにも活動の幅を広げるほか、2020年にはPARCO劇場オープニングラインナップ『ゲルニカ』、劇団四季オリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』などの大作も開幕を控える。
 

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