
左から:小松幹生(司会)、川村毅、佃典彦、坂手洋二、鴻上尚史、渡辺えり、鈴江俊郎、マキノノゾミ
受賞作 刈馬カオス『クラッシュ・ワルツ』

小松幹生
第19回劇作家協会新人戯曲賞、公開審査会は定刻午後6時半に開始。
司会は体調は悪いけど、出たがり屋のわたくしがやりました。歯の調子がよくなくて発音が悪いけどあしからずなんて言い訳して、体調の悪いことも言っていると、出場してきた審査員たちの中から、「そんなこと言わなくていいよ」の声ありで、客席から笑いと拍手あり。やさしい笑顔がたくさん並んで見える客席で、いい雰囲気でスタートです。
候補作品5本を、まず1本ずつまな板にのせて行きます。
服部紘二『獏、降る』について。鈴江氏が「何をやっているのか自分で判らないことをやってる自分を鋭く写しだしている」と言えば、佃氏は「不幸との向き合い方が、判り易く書かれているが、その不幸が抽象的だ」。川村氏が「エピソードがばらばらで、それが逆に、いいんじゃないかと思い、不条理かと期待していたが、そうでないのが残念」と発言。渡辺氏は「演劇とは何かと考えさせられた。例えば出だしのティッシュ配り、セリフは面白いが、メタファを感じられなくて、それが不満だ」と、始まりから議論が活発で面白いのですが20分を超しそうで、残念だけど割って入って次へ移ります。
ところで、各審査員の評言をここに短く書いてみますが、司会をしながらの走り書きのメモを元にしていますので、間違ってる可能性もなきにしもあらず、あとで各審査員の意見を読んでくださるように。
さて、次は春陽漁介『ト音』。坂手氏「人格が分裂している問題の生徒だけでなく、他の人物がみな丁寧に描かれていて、例えばSFのようなフィクションがあって、それも面白い」。鴻上氏「この高校生の人格分裂の理由が欲しいが、それを匂わせる言語感覚が鋭い」。渡辺氏「ピュアな高校生がまるで少女マンガのように描かれていて乙女心を刺激された」と認める意見のあとに、誰が言ったのだったか、2人に分裂した人格が1人に戻って、涙してよかったよかったでおしまいになるのが、違うのではないかと、不満が表明される。
つづいて刈馬カオス『クラッシュ・ワルツ』。マキノ氏「好きな作品です。よく出来てる。交差点近くの家に住み、供えられる花を見てなんだかだ言っていた夫婦の生き方も、ラストで謎がとけるのがいい」と言えば鴻上氏も「傍観者の罪と言いながら、そうでないことがラストで判るのがいい」と同調。佃氏も「交通事故に無関係の人の家で、出会うことのなかった被害者、加害者が出会う設定がいい。そして背景にいつも隣の家から子どもの弾く稚拙なピアノが聞こえてくる設定だが、これが効いている」と認めると、川村氏が「息づまるような人間関係で抽象度の高いものになると期待したが、期待が外れた」と言えば、渡辺氏から「罰としてのセックスがあると認めるような男の論理で書かれた部分があって作者の勝手な男の姿勢に疑問を感じた」と指摘があって、いや、それはそうじゃないと、それへの反論が何人かの口から活発に出て、またもや時間切れで、次へ。
山田百次『東京アレルギー』。鈴江氏が「共通語だとドライになることを津軽弁を使うことで、話の中身にユーモラスで説得力が出てくる、これはいいところだ」と言えば、渡辺氏が「この作品、現代的で、震災後の今の東北への応援としても、もっともっとやってほしい」と希望をのべ、佃氏が「宿命的な不幸というものを推進力にして希望と絶望を描いている」と指摘すれば、鴻上氏は「今の東京の現実の違和感というものをもっと感じたい」と言う。
森馨由『血の家』。マキノ氏は「特殊な関係にある家族ではなくて、普通にある家族の姿として普通に読んだ。嫌な話の羅列かもしれないが、死んだ父親の不幸な人生に思いを巡らせた」と認めれば、仮通夜に集まった女たちが皆んな母親が違うという特殊な「ばらばら感を描きたかったのかと期待したのだが……」と坂手氏。鴻上氏が「筆力がある分、ドラマチックにし過ぎたのではないか」と言うと、川村氏は「これはすべてが長女である淳子の頭の中の現実で、そのために仕掛けとしての散文的なト書きがある」と評価する発言。
ここで時間はとっくに8時を回っている。
いそいで、いつものように1人2票ずつの投票をしてもらう。
今年は紙の準備を忘れていたので、作品ごとに挙手してもらうことにする。集計すると、『獏、降る』が0票、『ト音』が3票、『クラッシュ・ワルツ』が5票、『東京アレルギー』が3票、『血の家』が3票。
休憩後、さて、司会のわたくし、黒板に書かれた1回目の投票の結果を眺めて、どう進めるかと迷い、審査員たちに意見を聞く。だいたい、ここで票数の多い2本について議論をしたという記憶があるのですが、5、3、3、3、ですから、困りました。
で、1人1本だけだったら、どれに投票したかと、それを発言してもらうことにする。 このあたり、そのやり方に異論が出て審査員たちともめたのですが、客席から多くの笑いが出て、ぼくとしては、失敗がいい結果を生んでるなと腹の中で喜んでいたのでした。
そして作品についての論議がいろいろと出ての最終投票というワケになり、『クラッシュ・ワルツ』が4票を獲得、そして『ト音』が2票で、どちらにするか迷っていた鴻上氏から、2本同時授賞は考えられないのか、の発言があったが、他の審査員から同調する意見が出ず、『クラッシュ・ワルツ』1本の授賞と決定して9時ちょうどに終結したのでした。めでたし。
第19回劇作家協会新人戯曲賞、公開審査会は定刻午後6時半に開始。
司会は体調は悪いけど、出たがり屋のわたくしがやりました。歯の調子がよくなくて発音が悪いけどあしからずなんて言い訳して、体調の悪いことも言っていると、出場してきた審査員たちの中から、「そんなこと言わなくていいよ」の声ありで、客席から笑いと拍手あり。やさしい笑顔がたくさん並んで見える客席で、いい雰囲気でスタートです。
候補作品5本を、まず1本ずつまな板にのせて行きます。
服部紘二『獏、降る』について。鈴江氏が「何をやっているのか自分で判らないことをやってる自分を鋭く写しだしている」と言えば、佃氏は「不幸との向き合い方が、判り易く書かれているが、その不幸が抽象的だ」。川村氏が「エピソードがばらばらで、それが逆に、いいんじゃないかと思い、不条理かと期待していたが、そうでないのが残念」と発言。渡辺氏は「演劇とは何かと考えさせられた。例えば出だしのティッシュ配り、セリフは面白いが、メタファを感じられなくて、それが不満だ」と、始まりから議論が活発で面白いのですが20分を超しそうで、残念だけど割って入って次へ移ります。
ところで、各審査員の評言をここに短く書いてみますが、司会をしながらの走り書きのメモを元にしていますので、間違ってる可能性もなきにしもあらず、あとで各審査員の意見を読んでくださるように。
さて、次は春陽漁介『ト音』。坂手氏「人格が分裂している問題の生徒だけでなく、他の人物がみな丁寧に描かれていて、例えばSFのようなフィクションがあって、それも面白い」。鴻上氏「この高校生の人格分裂の理由が欲しいが、それを匂わせる言語感覚が鋭い」。渡辺氏「ピュアな高校生がまるで少女マンガのように描かれていて乙女心を刺激された」と認める意見のあとに、誰が言ったのだったか、2人に分裂した人格が1人に戻って、涙してよかったよかったでおしまいになるのが、違うのではないかと、不満が表明される。
つづいて刈馬カオス『クラッシュ・ワルツ』。マキノ氏「好きな作品です。よく出来てる。交差点近くの家に住み、供えられる花を見てなんだかだ言っていた夫婦の生き方も、ラストで謎がとけるのがいい」と言えば鴻上氏も「傍観者の罪と言いながら、そうでないことがラストで判るのがいい」と同調。佃氏も「交通事故に無関係の人の家で、出会うことのなかった被害者、加害者が出会う設定がいい。そして背景にいつも隣の家から子どもの弾く稚拙なピアノが聞こえてくる設定だが、これが効いている」と認めると、川村氏が「息づまるような人間関係で抽象度の高いものになると期待したが、期待が外れた」と言えば、渡辺氏から「罰としてのセックスがあると認めるような男の論理で書かれた部分があって作者の勝手な男の姿勢に疑問を感じた」と指摘があって、いや、それはそうじゃないと、それへの反論が何人かの口から活発に出て、またもや時間切れで、次へ。
山田百次『東京アレルギー』。鈴江氏が「共通語だとドライになることを津軽弁を使うことで、話の中身にユーモラスで説得力が出てくる、これはいいところだ」と言えば、渡辺氏が「この作品、現代的で、震災後の今の東北への応援としても、もっともっとやってほしい」と希望をのべ、佃氏が「宿命的な不幸というものを推進力にして希望と絶望を描いている」と指摘すれば、鴻上氏は「今の東京の現実の違和感というものをもっと感じたい」と言う。
森馨由『血の家』。マキノ氏は「特殊な関係にある家族ではなくて、普通にある家族の姿として普通に読んだ。嫌な話の羅列かもしれないが、死んだ父親の不幸な人生に思いを巡らせた」と認めれば、仮通夜に集まった女たちが皆んな母親が違うという特殊な「ばらばら感を描きたかったのかと期待したのだが……」と坂手氏。鴻上氏が「筆力がある分、ドラマチックにし過ぎたのではないか」と言うと、川村氏は「これはすべてが長女である淳子の頭の中の現実で、そのために仕掛けとしての散文的なト書きがある」と評価する発言。
ここで時間はとっくに8時を回っている。
いそいで、いつものように1人2票ずつの投票をしてもらう。
今年は紙の準備を忘れていたので、作品ごとに挙手してもらうことにする。集計すると、『獏、降る』が0票、『ト音』が3票、『クラッシュ・ワルツ』が5票、『東京アレルギー』が3票、『血の家』が3票。
休憩後、さて、司会のわたくし、黒板に書かれた1回目の投票の結果を眺めて、どう進めるかと迷い、審査員たちに意見を聞く。だいたい、ここで票数の多い2本について議論をしたという記憶があるのですが、5、3、3、3、ですから、困りました。
で、1人1本だけだったら、どれに投票したかと、それを発言してもらうことにする。 このあたり、そのやり方に異論が出て審査員たちともめたのですが、客席から多くの笑いが出て、ぼくとしては、失敗がいい結果を生んでるなと腹の中で喜んでいたのでした。
そして作品についての論議がいろいろと出ての最終投票というワケになり、『クラッシュ・ワルツ』が4票を獲得、そして『ト音』が2票で、どちらにするか迷っていた鴻上氏から、2本同時授賞は考えられないのか、の発言があったが、他の審査員から同調する意見が出ず、『クラッシュ・ワルツ』1本の授賞と決定して9時ちょうどに終結したのでした。めでたし。
*各審査員による選評は追って掲載いたします。